この時代をどう生き残ればいいのか。経営者・働き手・消費者それぞれに求められる姿勢を明らかにしたい。
最低賃金1500円で企業の損益はどうなるか
まず、最低賃金が1500円になると企業の利益がどれだけ減るのかを、売上1億円、人件費3000万円、営業利益0円の飲食店のケースで考えてみる(参考:令和5年度中小企業実態調査 中小企業庁、平成28年飲食店営業の実態と経営改善の方策 厚生労働省)。
単純計算で人件費が1.5倍になるとすると、人件費が1500万増加し、営業利益が1500万円低下する(図1)。

図1 人件費が1500万増加、営業利益が1500万円低下
では、利益を保持するため、仮に値上げのみで人件費の上昇分をまかなおうとするとどうなるか。単価2500円を2875円に上げることになり、値上げ幅は15%(図2)。これだけ単価を上げると、顧客離れを引き起こすリスクが高まるだろう。

図2 値上げのみで人件費をまかなえば単価は15%増となる
ここで大切なのは、複数の方策を組み合わせた計画を作ることだ。例えば客単価を5%アップするが客数は維持、さらにAIやITなどを使って業務効率化し人件費増を25%増にとどめ、経費も下げて現状の利益を維持すると考えると図3のようになる。この考え方であれば、単価アップを5%に留めることができる。

図3 複数の方策を組み合わせた場合
あくまでこれは一例である。売上を上げるよりも業務効率化に重きを置く考えもあるし、客数も客単価も伸ばし売上を上げる考えもあるだろう。大切なことは、人件費がいくら上がるか試算し、カバーするための利益構造を計画することだ。
精神論ではなく数字に落とし込まれて初めて、何をどこまで対策すればいいか、どこまで値上げしなければならないかが見えてくる。計画がなければ「値上げしたから儲かっているだろう」と錯覚し、実際は人件費を賄えず倒産することも十分にありえる。計画を持たない企業がいかに危険なのかが分かるだろう。