「Japan to Global」の実現へ

「Japan to Global」という高い志を掲げる二人だが、実はその性格は対照的である。

 夏目氏いわく、「行動力が異常」なのが李氏だ。とにかく打席に立ち、バットを振り続ける。あるとき、李氏が米国出張に行った際に、社内のSlackを見ると彼から面談メモが届いていた。詳しく予定を聞いていなかった夏目氏が詳細を見てみると、セコイア・キャピタルをはじめ、米国の名だたるファンドの著名パートナーとの面談内容が記載されていた。その上、まだ帰国してもいないのに、これらの投資家を起業家にすでにつないでいたというので、さらに驚かされた。

日本市場に注がれる熱視線…異端VCが世界へ羽ばたくスタートアップを生み出すの画像3
(画像=Asu Capital Partners Founding Partner 李路成氏)

 こうした大胆さを持つ“攻めの李”に対し、“守りの夏目”は戦略を緻密に組み立て、足場を固めてから動くタイプだ。「空中戦の李と、地上戦の私。地上からも空中からも攻めてこそのACPなのです」と語る。

 この両極のスタイルが共存していることが、ACPの柔軟かつ立体的な支援の源になっている。彼らの挑戦は、日本という国が再び世界とつながるための橋渡しの試みでもある。「Japan to Global」という旗印は、スタートアップ個々の挑戦だけでなく、日本市場そのものの再定義につながるかもしれない。

 実際、資本や人材が再び日本に流れ込む今、日本はこれまでとは異なるかたちで“選ばれる”フェーズに入りつつある。こうした潮流の中で、彼らが見据えるExit戦略も、国内IPOやM&Aにとどまらない。グローバル企業によるM&Aも視野に入れており、「共通スタンダード」を見つけたスタートアップが、日本から世界の産業構造に橋をかける存在になることを目指している。

「海外の投資家が“日本市場の壁を越える”だけでなく、“その壁の中に入ってもらう”ことも見据えています」と夏目氏は語る。

 記者は最後にこう尋ねた。

「あなた方は、世界のどこででも起業できたはずです。なぜ日本なんですか」

 少し考えて、夏目氏は言った。

「日本が好きで、その日本が今最大のチャンスを迎えているからですね」

 またとないチャンスの時期だと日本に賭けた二人。ここからユニコーンが生まれることに期待したい。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)