高い「翻訳力」 他VCも味方につける独自ポジション
ACPの強みは、単なる出資にとどまらない。市場選定、資金調達、ローカルチームの構築、人材紹介、ピッチ資料の作成、海外発信支援──スタートアップのグローバル展開に必要なサポートを、あらゆる側面から提供している。
たとえば、先述のVOLVE CREATIVEは、プレスリリースを日中英の3言語で同時発信した。それぞれの地域に最適化されたかたちでメッセージを届ける裏側には、ACPの支援があった。
海外投資家から見れば、「よくわからない日本のスタートアップ」に出資するのは容易ではない。そこでACPは、出資先スタートアップの成長状況を定期的にアップデートし、「以前お話ししたあの企業が、1年で大きく成長しています」といった形で投資家の関心をつなぎとめる地道な活動も行っている。
こうした支援は、単に語学力だけで対応できるものではない。「ピッチ資料一つとっても、海外投資家には日本の常識が通用しない。競合環境や市場背景など、前提となる情報を補完しないと、相手には刺さらないのです」と夏目氏は語る。英語を話せるだけでは足りず、文化そのものを“翻訳”する力が求められる。ACPとしては、「このスタートアップは信頼に足る」と思わせる“レファレンスチェック可能な存在”であることを目指している。
人材面でも独自のネットワークを活かしている。ACPは、バイリンガル・トリリンガル人材とのつながりを活用し、スタートアップとグローバル人材のマッチングを支援している。たとえば、米ハーバード大学を卒業し、現在は東京大学大学院に在籍する人物がVOLVE CREATIVEに参画するきっかけを作ったのも、ACPの紹介によるものだ。
さらに注目すべきは、その立ち位置のユニークさである。ACPは、同じラウンドで投資を行う他のVCから声がかかることも多い。通常であれば競合関係にあるはずのVCとも協業関係を築けるのは、ACPが提供する支援機能が他と異なっているからにほかならない。
「私たちは“ファンド”というより、“ファーム”だと思っています。今の日本にとって最適な支援手段がベンチャーキャピタルファンドだったのでこの形をとっていますが、本質はそこではない。ファンドごとにテーマを変えるのではなく、マクロの流れを見据えたうえで、必要な打ち手を戦略的に設計し、ファンドという器に落とし込んでいく。それが私たちのスタンスです」と夏目氏は語る。