「日本にはチャンスがある」新進気鋭のVC
「今、日本には大きなチャンスがあります」。そう語るのは、2023年8月にAsu Capital Partners(以下、ACP)を創業したFounding Partner・夏目英男氏と同・李路成氏だ。
ACPは、「Japan to Global」を掲げ、日本発でグローバル市場に通用するスタートアップへの出資を行うVCだ。最大の特徴は、LP(リミテッド・パートナー)の約4割が海外投資家で構成されている点にある。次世代の日本発プロダクトに対する関心の高まりを受け、国外のVCや個人投資家が早期から同ファンドに参画している。また、MIXI、ディー・エヌ・エー、TBSといった事業会社や金融機関も出資に名を連ねており、国内外で高い信頼を獲得していることがうかがえる。
夏目氏と李氏に共通するのは、日本語・英語・中国語の3言語を自在に操るトリリンガルであることだ。国内の投資家としては稀有なこの言語能力を活かし、それぞれ著名VCを経て独立。ACP自体もまた、スタートアップのようにゼロから立ち上げたファームである。
なぜ彼らは独立を選び、いかにしてファンドを立ち上げたのか。「日本のチャンス」を語る前に、その成り立ちをひもといていきたい。
中国でスタートアップの熱狂を体感した二人
夏目氏は元East Ventures、李氏はYJキャピタルの出身。二人の共通点は、中国における国家主導のスタートアップ熱を、現地で肌で感じた原体験である。
夏目氏は、両親の仕事の関係で5歳のときに中国・北京に移住し、2000年から2019年までを現地で過ごした。アリババ、テンセント、DiDi(滴滴出行)、バイトダンス、拼多多(Pinduoduo)──いまやテックジャイアントとなった企業群が、まさにスタートアップとして登場し、急成長していく様を目の当たりにした世代だ。大学時代には、清華大学に在籍しながら、日本のスタートアップ経営者による「中国スタートアップ視察ツアー」のアテンドを手伝うこともあったという。
「ライドシェアについて『面白いと聞いたので教えてほしい』と聞かれたのですが、中国ではすでにそれが当たり前になっていました。ある国においては『当たり前』のことが、別の国では『特殊』だと捉えられる。これがイノベーションだと思いました」と夏目氏は振り返る。

一方、李氏は中国・上海生まれで、2013年に早稲田大学政治経済学部に進学した。ちょうどその頃、中国では「大衆創業・万衆創新」という国家主導のイノベーション促進政策が進行中であり、李氏の高校時代の同級生たちも、次々とスタートアップやVCに進んでいた。李氏も起業したいと思い、大学1年生で会社を興した。チームは100人を超え、売上が短期間で300万円から3000万円に変わるというスタートアップ的体験をしたという。
そうした原体験を持ちつつ、それぞれ別のVCで経験を積んできた。転機となったのは、2022年夏のこと。日本にやってくる海外投資家が次々と彼らに面会を求めてくるようになったのだった。
その頃の夏目氏と李氏は、他社にいながらも週に3〜4回は会うほど仲が良く、情報交換を密に行っていたのだが、あるときそれぞれがアポを取っていた投資家が、結局どちらにも会っていたことに気づく。「日本のスタートアップへの関心が高まっているみたいだ。だったら一度海外投資家を招いたカンファレンスをやろうか」と話し始めた。
2022年12月、二人は初めて共同でカンファレンスを開催。海外投資家、日本の起業家、外国人起業家を一堂に集めた場は、深夜まで熱気に包まれた。「誰も帰らないから、『そろそろ帰ってください』とこちらから声をかけるほどでした」と李氏は苦笑する。グローバルのキャピタルアロケーションが再配分されるに違いないーー、二人はその胎動を感じていた。
その場で参加者から「ファンドを作らないのか?」という問いが投げかけられたことをきっかけに、「この熱を一過性のものにせず、継続的な場を作りたい」と二人は強く思うようになる。年が明けてまもなく、ACPの実現に向けて彼らは本格的に動き始めた。