水戸躍進の最大の立役者は森直樹監督以外にないだろう。クラブOBで、引退翌年の2006年から水戸ユースでコーチ、監督を歴任し、2011年からトップチームのコーチを務めた。そして2024年5月に解任された濱崎芳己前監督の後任として監督に就任。
J3降格圏からチームを見事に立て直し、J2残留というミッションを完遂させた手腕は高く評価されたが、今季の快進撃は、彼の真の能力が「再建」だけでなく「構築」にあることを証明している。
森監督の指導者キャリアは、決して華やかなものではなかった。28歳で現役を引退し、下部組織でコーチを歴任。地道に経験を積んできた苦労人だ。彼のサッカー哲学の根幹にあるのは、徹底した「リアリズム」。自分たちが置かれた状況と保有する戦力を冷静に分析し、勝利の確率を上げるための最も現実的な手段を選択するという考え方だ。
就任当初、森監督がまず着手したのは、崩壊状態にあった守備の再構築だった。彼は選手たちに、ボールを保持することの理想よりも、ボールを失った後の即時奪回と、強固な守備ブロックを形成することの重要性を説いた。昨シーズンは「守備の森、攻撃の樹森(大介氏、現アルビレックス新潟監督)」とされる役割分担で残留を果たしたが、樹森氏が去った今季、森監督は攻撃面の構築にもその才能を発揮する。
森監督が形作った攻撃は、決して美しいパスワークを連続させるポゼッションサッカーではない。基本は堅守速攻だ。しかし単なるカウンター一辺倒ではなく、相手陣形や試合状況に応じて攻撃のスイッチを入れるポイントを的確に見極める。ボールを奪ってからの縦に速い攻撃や計算されたセットプレー、そして相手のプレスをいなしながらサイドに展開する形など、多彩な攻撃パターンを持つ。それらを日々のトレーニングで選手一人一人に落とし込み、状況判断の基準をチーム全体で共有できているからに他ならない。