ホーキング放射によれば、ブラックホールでは事象の地平線(脱出不能の境界)の付近で粒子のペアが突然現れ、一方がブラックホールに飲み込まれ、もう一方が外へ飛び出すことがあります。

その結果、ブラックホールはごくゆっくりと質量を失い、最終的には完全に「蒸発」してしまうと考えられています。

近年、このホーキング放射の概念をブラックホール以外にも拡張できるのではないかと注目されるようになりました。

2023年には、ラドバウド大学のハイノ・ファルケ教授(ブラックホール物理学者)、マイケル・ヴォンドラック博士(量子物理学者)、ヴァルター・ヴァン・スイレコム教授(数学者)からなる研究チームが、「中性子星のような他の天体でもブラックホール同様に蒸発しうる」ことを理論的に示唆したのです。

この先駆的な研究は大きな反響を呼び、「では具体的に他の天体が蒸発し尽くすにはどれほどの時間がかかるのか?」という疑問が科学界内外から寄せられました。

そこで今回研究者たちは、ホーキング放射と同様の量子効果に由来する重力ペア生成が宇宙全体の寿命に与える影響を定量的に評価し、恒星の残骸(白色矮星や中性子星など)の寿命に上限を与えることを目的として研究を行いました。

人体も月も10⁹⁰年で量子蒸発してしまう

人体も月も10⁹⁰年で量子蒸発してしまう
人体も月も10⁹⁰年で量子蒸発してしまう / Credit:Canva

ブラックホールではない天体が蒸発し宇宙が終わってしまうまでどれほどかかるのか?

もちろん宇宙全体の寿命を直接“実験”することはできませんが、研究チームは理論計算によってさまざまな天体の蒸発時間を求めました。

その結果、ホーキング放射と同様の量子効果による重力ペア生成によって生じる蒸発時間は、おおまかには天体の平均密度によって決まり、質量が変化すると若干の違いが生じることが示されました。

重力ペア生成とは何か?なぜ量子蒸発を起こすのか?

「重力ペア生成」とは少し耳慣れない言葉かもしれませんが、実は宇宙の運命を大きく左右する可能性を秘めた、とても興味深い現象です。今回の研究によると、星やブラックホールがこの「重力ペア生成」によって、いつかは消滅してしまう可能性があるというのです。一体どういうことでしょうか?