メルシエ氏は、「抽象領域に関心を持つ学者の割合がどの地域や時代でも非常に似通っていたことは驚きでした」と述べています。
また具体的な例として「数学に興味を持つ人は世界中どこでも歴史よりも天文学に興味を持つ傾向がある」と指摘し、興味の組み合わせには世界共通の特徴があると説明しています。
言い換えれば、数学と天文学、歴史と神学はセットになりやすい傾向が見られました。
『知の設計図』は本物か

では、なぜ人類の知的好奇心にはこのような共通の“三分割パターン”が現れるのでしょうか。
研究チームはこの問いに対し、人間の認知的・心理的な特性が背景にある可能性を指摘しています。
つまり、人それぞれの「物事への興味の持ち方」に違いがあり、その違いが結果的に探究分野の選択に表れるのではないか、という考え方です。
例えば、抽象的な理論や論理的思考に強く惹かれる人は数学や哲学といった分野に興味を持ちやすく、観察や分類など地道な実証に魅力を感じる人は動植物や地理といった自然研究に向かい、人間の物語や倫理的な問いに心を動かされる人は歴史や神学など人文的な領域を志向しやすい──このように生得的な「知的好み」の違いが学者の興味分野を三者三様に導いているのかもしれないのです。
一方で、興味分野の組み合わせに見られるパターンすべてが先天的気質で決まるわけではないとも考えられます。
研究チームは、個人の認知スタイルと環境要因との相互作用も無視できないと述べています。
歴史上には特定の領域の研究がとりわけ盛んになる時代や場所がありました。
例えば大航海時代の17世紀オランダでは、海外探検の機会に恵まれたことで博物学(自然研究)の発展に弾みがつきました。
こうした環境上の要因により、ある時期には自然領域への好奇心が刺激されることもあったでしょう。
しかし興味深いことに、たとえ特定の領域が隆盛しても他の領域への関心が消えてしまうことはなく、どの時代・社会でも3つの領域すべてがしっかり存在感を保ち続けていたのです。