つまり、どれほど強い力でクォークを引き離しても、単独のクォークが外へ飛び出すことは決して起こりません。

この「糸を切ろうとするほど、切り口から新たなペアが湧き出て、結局クォーク同士が再び対を組む」という仕組みこそが「閉じ込め」と呼ばれる現象です。

大型加速器で高エネルギーの衝突を起こしても、検出器に現れるのは、こうして糸で束ね直された多数のハドロンがシャワー状に飛び出した姿(いわゆるジェット)だけとなります。

閉じ込めがどのように成り立ち、糸の生成や断裂がどのように進むかを数式だけで厳密に追いかけるのは非常に難しく、従来のスーパーコンピューターでも完全な解析は困難でした。

(※いくら離しても引き離しにかかる力が一定という異常さを再現するのが計算で極めて困難だからです)

そこで近年は、量子コンピューターを利用してこの壮大な力学を“机上の実験”として再現し、リアルタイムで可視化しようとする取り組みが進んでいます。

量子デバイス内部に“ミニ宇宙”を作り、ゲージ理論をそのまま縮小コピーすれば、ひもが張り、たるみ、切れるまでをリアルタイムで観察できます。

実際、一次元(線状)のモデルなら、イオントラップや小型量子回路で既に成功例がありますが、平面に広げると糸は左右にも揺れて絡み合い、難易度が跳ね上がります。

そこで今回の研究では、これまで手が届かなかった二次元世界に量子計算機で踏み込み、「(2+1) 次元のゲージ理論で弦が生まれ、引き伸ばされ、そして切れる」一連のドラマを初めて可視化することにしました。

ミュンヘン工科大学のミヒャエル・クナップ教授は「量子コンピューターという顕微鏡を得て、宇宙の基本法則を実験室サイズで検証できる時代が始まりました」と語り、量子技術が理論物理を“机の上の実験”へ変える力を強調しています。

いったいどうやってクォークの輪ゴムは伸びていくのでしょうか?

量子コンピューターで「クォークの糸」を引きる過程を可視化

量子コンピューターで「クォークの糸」を引きる過程を可視化
量子コンピューターで「クォークの糸」を引きる過程を可視化 / Credit:Canva