通常は見ることのできない素粒子間の「クォークの糸」が引き伸ばされて破壊される「弦の破壊(string breaking)」の瞬間を、量子コンピューター上で再現することに成功しました。
2つのまったく性格の違う量子コンピューターを駆り出し、平面上で自在に揺らぐ「二次元+時間=(2+1) 次元」のミニ宇宙をつくり上げ、自然界最強の結合力と言われるクォーク間の弦が切れる瞬間に真空を裂いて新しい粒子ペアを産み落とす様子を、世界で初めて可視化して捕えることに成功したのです。
中性原子を用いた量子シミュレーター(米クエラ社「Aquila」)と超伝導量子プロセッサー(グーグル社「Sycamore」)のそれぞれで独立に報告されたこの成果は、高エネルギー物理の基本過程を卓上の実験で再現したものとして物理学界で大きなブレークスルーとなっています。
研究内容の詳細について述べられている2本の論文はどちらも2025年6月4日に『Nature』にて、1つは「(2+1)次元リュードベリ量子シミュレーターによる「弦の破断」現象の観測(Observation of string breaking on a (2 + 1)D Rydberg quantum simulator)」もう1つは「(2+1)次元格子ゲージ理論における粒子と弦の動的過程の可視化(Visualizing dynamics of charges and strings in (2 + 1)D lattice gauge theories)」とのタイトルで発表されました。
目次
- 自然界最強の結合は切られると増える
- 量子コンピューターで「クォークの糸」を引きる過程を可視化
- 机上の加速器はどこまで行く?
自然界最強の結合は切られると増える

私たちが日常で目にする物質の多くは、原子の中心にある陽子や中性子から成り立っています。
これらの粒子をさらに詳しく調べますと、その内部には「クォーク」と呼ばれる、陽子直径のおよそ1万分の1という極めて小さな粒子が3個ずつ、しっかりと結びついていることが分かっています。