一方の Sycamore では、平面格子に並んだ超伝導量子ビットで Z2 ゲージ理論 をプログラムし、まず“静かな基底状態”を用意。そこから 電場の強さに相当する結合定数をゆっくり変えてシミュレーションを進めると、はじめはほとんど張力を感じない2個の電荷の間に、次第にゴムひものような糸が張り始め、ついにはピンと張った閉じ込め状態へと滑り込む様子が観測されました。ひもが弱いときにはふにゃふにゃ揺れ、強いときにはギター弦のように固くなる――二次元ならではの横揺れと剛直さのグラデーションまで捉えた点が新鮮です。

さらに設定を追い込むと糸のエネルギーが閾値を越え、真空が新しいペアを生んで糸を切り離すストリング破断も再現。共同リーダーのフランク・ポルマン教授は「場合によっては測定量がゼロになり、糸が消えたように見えるシナリオもあった」と語り、ペドラム・ルーシャン氏は「量子プロセッサーがゲージ理論を実験対象へ変える力を示せた」とコメントしています。

2つの手法が示したもの

Aquila の “自然にまかせるアナログ” と Sycamore の “手順を刻むデジタル”――正反対のアプローチが、同じ物理現象を別々のレンズでとらえ、組み写真のように合致したこと自体が大きな信頼性の証明です。どちらの実験も、従来のスーパーコンピューターが苦手とする 「リアルタイム・二次元・強結合」 という三拍子そろった難題を突破し、量子コンピューターが“ひも物語”の映写機になり得ると示しました。

机上の加速器はどこまで行く?

机上の加速器はどこまで行く?
机上の加速器はどこまで行く? / Credit:Canva

今回の二つの研究は、量子コンピューターが従来のスーパーコンピューターでは困難だった現象を再現し、「新しい発見のための道具」としての可能性を実証しました。

卓上サイズの量子実験で、巨大な加速器が生み出す素粒子反応のエッセンスを直接目に見える形で再現できたことは画期的で、高エネルギー物理と量子情報技術をつなぐ架け橋となる成果です。