そこでチームは、極限密度では量子力学が主役に躍り出るはずだとして、電子や中性子などフェルミ粒子が同じ状態に二つ入れないという「パウリの排他原理」を組み込み、重力崩壊を数式レベルで再構築しました。

すると、この量子重力ハイブリッドモデルを解析した結果、驚くべき解が得られます。

圧縮される物質雲は無限密度に達する前に“量子のバネ”で反発し、バウンス(跳ね返り)を起こして外向きの膨張へ転じることが理論的に示されたのです。

言い換えれば、量子力学のパウリの排他原理(同種の粒子を無限に押し込めることはできないという原理)によって、崩壊する物質の圧縮がどこかで止まり、重力崩壊が逆転するのです。

しかも研究チームの解析によれば、正の空間曲率(k>0)と量子排他原理が満たされた条件下では、このバウンスが理論的に避けられないことが示されました。

(※このとき量子排他圧は、一般相対性理論で想定される“強エネルギー条件”を破ります。その結果、古典的な特異点定理(ペンローズ=ホーキング)が前提とする条件が崩れ、特異点を回避できる道が開かれるのです)

研究者たちは「我々は重力崩壊が必ずしも特異点で終わる必要はないことを示しました。崩壊した物質の雲が高密度状態に達した後に反発して跳ね返り、新たな膨張段階へ移行できることを発見したのです」と説明しています。

重要な点は、この跳ね返り(バウンス)の現象が一般相対論の枠内で、なおかつ量子力学の基本原理だけで説明できるということです。

すなわち、特殊な仮説上のエネルギー場や高次元空間など未知の物理を導入せずとも、現在確立している物理法則の範囲内で宇宙の始まりを再現できるといいます。

そして驚くべきことに、このバウンスによって生まれた宇宙は我々の宇宙とよく似た性質を持ち、さらに二段階の加速膨張が自然に実現されることが分かりました。

(※ここで言う2段階は①ビッグバン直後の超高速インフレーション期と②現在進行中のダークエネルギーによる加速膨張期のことです。)