宇宙は約138億年前の「ビッグバン」で始まったと考えられています。

しかし、ビッグバンは必ずしも「万物の始まり」ではないかもしれません。

イギリスのポーツマス大学(UoP)で行われた研究によって、私たちの宇宙は親ブラックホールの腹の中で極限まで潰れた物質が量子的に跳ね返るように爆発し、そこから子宇宙として急速に膨張し始めたというシナリオが示されました。

研究では、この跳ね返り(バウンス)は重力崩壊をいったん逆回転させるほど強烈で、誕生直後の宇宙を一気に膨らませたインフレーションも、138億年後の今なお続くダークエネルギー加速も、同じ「量子のバネ」の復元力として一括で説明できることを示しています。

私たちの宇宙は本当に親ブラックホールの中にある存在なのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月29日に『Physical Review D』にて発表されました。

目次

  • 標準宇宙論の欠けたパズル
  • 私たちの宇宙はブラックホールの中で生まれた
  • 観測で試される跳ね返り宇宙

標準宇宙論の欠けたパズル

標準宇宙論の欠けたパズル
標準宇宙論の欠けたパズル / Credit:Canva

夜、空を見上げると、星々はきれいに散らばり、どこまでも平らな布のように広がっているように見えます。

望遠鏡を向ければ、銀河どうしがつくる泡状の巨大構造や、天の川のなめらかな帯まで、じつに秩序正しく並んでいることがわかります。

──では、なぜ宇宙はここまで「平坦で、滑らかで、しかも広い」のでしょうか。

この謎に答えるため、現代の宇宙論は長らく「標準宇宙論モデル」と呼ばれる設計図を採用してきました。

そこでは、ビッグバンで火ぶたを切った宇宙が、誕生直後にインフレーションと呼ばれる超高速の“瞬間膨張”を起こし、さらに現在は正体不明のダークエネルギーによって再び加速している──という三段構えのシナリオが描かれています。

(※宇宙背景放射(CMB)を根拠にしたビッグバンよりインフレーションのほうが早かったという解説もあり得ますが、ここではビッグバン=全ての始まりとなる高密度の点とし、全てがそこから始まったとします)