それならば、芝生の保護対策を強化するしかない。テラプラスでは、使用頻度が高い場合や悪天候が重なった際には効果が限定的なものとなる。より堅牢な保護システムを開発するか、音楽ライブの観客席に使用するピッチエリアを制限する(例えば、ゴールエリアやセンターサークルを避ける)ことで、芝生のダメージを最小限に抑えることができるだろう。

サッカーファンと音楽ファンの間で対話の場を作ることで、互いの敵意を軽減できる可能性もある。スタジアム管理者が、多目的会場の維持管理の難しさについて双方に発信し、相互尊重を試みる努力も必要だ。例えば前述の『芝生観察日記』から得た知見を共有することで、音楽ファンはライブがいかに芝生に悪影響かを理解し、協力を促進できる可能性がある。

また、これは極論だが、フットボールの聖地であるイギリス、ロンドンのウェンブリー・スタジアムですら、毎年のように複数の音楽ライブが開催されている。そしてウェンブリーでも芝生の保護のためにテラプラスが使用されている。サッカーファンも近視眼的にではなく、スタジアムの稼働率や収益性を考えた広い心を持つべきなのではないだろうか。


横浜F・マリノスのゴール裏 写真:Getty Images

双方が楽しめるバランスの取れたアプローチへ

日産スタジアムは、サッカースタジアムにおける音楽ライブ開催の先陣を切ったことでハレーションを起こした。しかし、現在これは一般的となり、味の素スタジアムでは今夏だけでも、BOYNEXTDOOR(ボーイネクストドア/6月28日)、ENHYPEN(エンハイプン/7月5日)のライブが開催される予定だ。

さらに建設以来、音楽ライブどころかサッカー以外の球技も“排除”してきた埼玉スタジアム2002も、浦和レッズから埼玉県公園緑地協会に指定管理者が変わったことで、音楽ライブを誘致するのではないかという噂が立っている。もしそれが本当ならサポーターから反感を買うことは必至だが、「収益性」や「公共性」を持ち出されれば、浦和側からは反論する言葉もないだろう。それが時代の流れというものだ。