この2つの勢力の分断を増幅させているのは、もっぱらSNSだ。一部のサッカーファンは「○○(ライブを開催したアーティスト名)に日産スタジアムの芝生をメチャクチャにされた」と投稿し、“音楽ライブ悪玉論”を拡散。これに対し音楽ファンは、スタジアムの多目的利用と、芝生の摩耗や劣化の避けられないことを指摘し、ライブ開催を擁護している。

SNS上での議論は、それぞれの熱が不当に標的にされていると感じるファンが対立構造を生み出している。頭に血が上ったファン同士の感情的な対立の域を出ていない。

サッカーの試合と音楽ライブは、スケジュールの優先順位を巡って競合することになる。こればかりはスタジアムの収益性を考慮すれば致し方無いところだ。しかし、移行期間(6月から8月)の芝生は脆弱なため、この時期に音楽ライブを開催すれば損傷は避けられない。

一方、音楽ライブは重要な収入源で、時として横浜FMの試合よりも多くの観客が集まる。日産スタジアムでライブを行うようなアーティストは、最大75,000人のキャパシティーを埋められる一流ばかりだ。ライブを開催することによる経済的インセンティブがサッカーを上回っていることで、両者の緊張が継続的なものとなっている。

では、どういった解決策が考えられるだろうか。

日産スタジアム 写真提供: Gettyimages

管理者による対策とファンの視点の転換が必要

まず、ハイブリッド芝生システム自体の進歩は、耐久性の向上に繋がるだろう。そもそも同システムが採用されたのは、2019年ラグビーW杯に向けてのもので、同大会ではその耐久性が証明された。さらなる強化ハイブリッド芝生や、迅速に交換可能なモジュール式芝生など、最先端の芝生技術への投資は、音楽ライブによる芝生の損傷を軽減する可能性を秘めている。

また、重要な芝生移行期間を避けて音楽ライブのスケジュールを組んだり、イベント間の回復期間を長くしたりすることが考えられる。しかし、音楽ライブが夏場を中心に行われていることを考慮すれば、あまり現実的ではない。Jリーグは2026/27シーズンから秋春制に移行するが、開幕は8月下旬という見通しがなされている。つまり横浜FMは、開幕戦からいきなりボロボロの芝生の上で試合をせざるを得ない状況が生まれる可能性すらあるのだ。