これは時計には映らないので虚数の遅れと呼ばれますが、ただの計算上のツールではありません。

数式によれば、この隠れた遅れがあると、波のエネルギーが集まる中心周波数がほんのわずかに高い側へ押し上げられたり、逆に低い側へ引き下げられたりする――いわば“色合い”がかすかに変わる現象が起こるはずだと予測できたのです。

ただ当時は実験的な検証が難しく、またそもそも実際に観測できるとは考えられていませんでした。

虚数は虚数であり、実数の世界に顔を出すことはないとする考えもありました。

しかし理論物理学者の間では、虚数時間も何らかの形で波動現象に影響を及ぼしている可能性が指摘されていました。

そこで米メリーランド大学の研究チーム(イザベラ・ジョバネリ氏、スティーブン・アンラッジ氏ら)は、この虚数時間の遅れの予言を実験で検証することに挑みました。

彼らの目的は、虚数時間の遅れが現実の波動伝搬に測定可能な効果を及ぼすかを明らかにすることでした。

もしこれが確認できれば、「虚数時間」という抽象的な概念にも物理的実在としての意味があることになり、世紀の大発見となります。

“√−1 秒”を捕らえた!マイクロ波が暴いた『虚数時間』の正体

“√−1 秒”を捕らえた!マイクロ波が暴いた『虚数時間』の正体
“√−1 秒”を捕らえた!マイクロ波が暴いた『虚数時間』の正体 / Credit:clip studio . 川勝康弘

虚数時間の遅れが実数の世界にも「観測」できるのか?

答えを得るため研究チームは、電子レンジでもおなじみのマイクロ波を用いて虚数時間の遅れの効果を探りました。

舞台となったのは リンググラフ と呼ばれる輪っか状の同軸ケーブルでした。

研究者はこの輪のスタート地点から、釣鐘形(ガウシアン形)の短いマイクロ波パルスを“列車”に見立てて発車させ、ひと回りしてゴール地点に戻ってきたとき、波の“色”に当たる周波数と“到着時刻”の両方をスタート時とぴったり突き合わせ、ほんのわずかなズレまで見逃さないようにしました。