今回の研究により、これまで観測不可能だと考えられていた虚数時間の遅れを現実の観測機で捕らえることに成功しました。
そして虚数時間の遅れという概念は単なる計算上の産物ではなく、測定可能な物理量であることが証明されました。
研究チームも「虚数の時間遅れの想像上の存在を、パルスの周波数変化という現実の現象に直接結びつけたことに本研究の新規性がある」と強調しています。
言い換えれば、複素数の時間遅れに物理的な意味を与えることに成功したということです。
これは波動や光学の分野において、従来見過ごされてきた側面に光を当てる成果と言えます。
では、なぜマイクロ波パルスの周波数がずれるのでしょうか。
その物理的メカニズムについて、研究論文では興味深い解釈が示されています。
それによると、虚数時間の遅れがもたらす周波数シフトは、波がより吸収の少ない周波数帯へわずかにずれる傾向を持つといいます。
実験系では、特定の周波数成分が強く吸収されますが、シミュレーションではパルスの周波数がわずかにシフトし、吸収の小さい領域にずれる可能性が示されました。
これは波が「吸収による遅れ」を打ち消すよう振る舞うとも言え、結果的に負の時間遅れ(波のピークが見かけ上早く現れる現象)と表裏一体の関係にあります。
こうした振る舞いも虚数時間の遅れが現実に作用している証拠と言えるでしょう。
今回の研究は基礎的な物理現象の解明ですが、その波及効果も期待されます。
例えば、複素時間遅れを用いた波動の制御という新たな手法につながる可能性があります。
論文では、得られた知見により「周波数領域で得た複雑な散乱情報から時間領域での波の挙動を予測することが容易になる」と述べられ、光からマイクロ波まで広い周波数帯で測定手法の簡素化や新しい波動制御法への展開を示唆しています。
また今後、より複雑な系(モードが重なり合う場合や増幅がある場合、非線形性が強い場合など)でこの関係が成り立つか、さらには反射波における虚数時間の遅れや非相反系での時間遅れへの応用など、多くの研究展開が考えられるとされています。