研究チームはまず、輪状のケーブルに入った波が出口に出るまでに、どれくらい時間的に遅れたかを数値で表しました。。

波をさまざまな色(周波数)で流し込み、入り口と出口での振幅や位相の違いをまとめた“散乱行列S”という成績表を作り、そこから伝搬遅れを表す複素数 τ_T を導き出します。

この τ_T は実数部分と虚数部分の二つで構成された複素数で

  • 実部 Re[τ_T] → パルスが前後にどれだけ「横ズレ」するか(時間シフト)
  • 虚部 Im[τ_T] → パルスの中心周波数がどれだけ「縦ズレ」するか(周波数シフト)

……という対応関係が理論で予言されていました。

そして実験を行った結果、予想どおりの数値が続々と出現します。

たとえば出力パルスの中心周波数は入力時よりもごくわずかに変化しており、出口で測った波の「色」(中心周波数)を拡大鏡でのぞくと、入力よりほんのひとかけらだけ高い側に寄っていました。

このごく小さな色のずれ Δω を、数式に現れる“虚数の遅れ”から前もって計算してみると、驚くほどぴたり同じ値になり、目に見えない時間が周波数の変化としてそのまま姿を現したのです。

(※5.27 GHz(5270 MHz)を中心とするパルスでは、出力時に約4.8×10^5 Hz(約0.00048 GHz)ほど中心周波数が高くシフトしました。これは中心値の約 0.009 % に相当し、虚数時間の遅れの成分(Im(τ_T))から理論的に予測されるシフト量と一致していました。)

一方、パルスの到達時間のズレ量(およそ −8 ns の先行〈負の時間遅れ〉)は時間遅れ τ_T の実部(Re[τ_T])から導かれる値と対応していました。

つまり、虚数成分と周波数シフトの対応を初めて定量的に裏付けられたのです。

実験ではパルスの帯域幅を変えたり、リンググラフの共振モードから離れた周波数で試験するなど様々な条件で検証が行われました。

その結果、どの場合でも虚数時間の遅れが示す予測値通りに中心周波数がずれることが確認され、理論との整合がとても良いことが示されています。

虚数時間で何が変わる?