第一に重要なのは、植物の細胞内にある液胞(細胞の中にある袋状の構造)のpH(酸性度)が、ややアルカリ性(=弱い塩基性)であることです。多くの植物では液胞は弱酸性であるため、それだけで青色は発色しにくくなります。

第二に、デルフィニジンは金属イオン――たとえばマグネシウム(Mg²⁺)やアルミニウム(Al³⁺)など――と結合して「錯体(さくたい)」と呼ばれる化学構造を作る必要があります。この結合が安定すると電子の状態が変化して青色の光を反射しやすくなることがわかっています。

第三に、他の色素分子や補助分子、たとえばフラボノールやフェノール酸などと協調して働く「共色素作用(きょうしきそさよう/copigmentation)」が不可欠です。これは色素だけでは実現できない発色を、他の分子と協力して達成するしくみで、微妙な分子の配置やバランスがものをいいます。

つまり、青色を発現するには

  • 液胞のpHバランス
  • 金属イオンの存在
  • 他分子との精緻な相互作用

この3つの条件が「同時に」「適切に」整わなければなりません。

ジョン・イネス・センターの研究によれば、こうした条件は自然界ではきわめて稀にしか整わないため、青い花は全体の中でも非常に少数派にとどまっていると報告されています。

また、遺伝的にデルフィニジンを作れる植物であっても、上記のような生理的環境が整っていなければ、青ではなく赤紫やピンクなどに発色してしまいます。

ここで注目すべきは、赤や紫、黄色の発色に比べて、青ははるかに“面倒”であるという点です。 赤や紫は、液胞が弱酸性であれば比較的安定して発色しますし、黄色をつかさどるカロテノイドという色素も、細胞内で自然に蓄積されやすく、特別な金属イオンや共色素との結合を必要としません。

つまり、青だけが、分子構造、化学反応、細胞環境など、いくつもの条件が揃わなければ見えない「特別扱いの色」なのです。