このように、「生物には青い色素がほとんど存在しない」という事実は、長年の観察から研究者の間で経験的に指摘されてきました。
そして012年に、フランス・ソルボンヌ大学(Sorbonne University)とナミュール大学(University of Namur)の研究者、プリシラ・シモニス氏とセルジュ・ベルティエ氏が、実際に自然界に存在する青の発現メカニズムごとに「青く見える生物」を整理し、生物の青の発色には、光の干渉や散乱によって青色を生み出す「構造色」と、色素分子による「化学的発色」による2系統に大きく分類でき、自然界で観察される“青い色”の大半が、実は構造色によるものであることを系統的に明示したのです。
つまり、「青い生物が少ない」という経験的な指摘は、統計的にも正しく、実際に生物は青の色素を作ることが難しく、それゆえ構造色が代替手段として進化上選ばれていたことがわかったのです。
この観点から「なぜ青色だけが希少なのか」を改めて問い直した研究が、2021年に発表されたイギリスのジョン・イネス・センター(John Innes Centre)による分子植物学の報告です。
この研究は、植物が青色を生み出す際に要求される化学的条件が、他の色に比べてはるかに複雑であることを分子レベルで実証しました。
では具体的に、どのような条件で生物は青を生み出すことが難しくなっているのでしょうか?
生物にとって青色を作ることが難しい理由
現在、植物の花弁において“青く”見える色をつくる代表的な色素は、アントシアニン(anthocyanin)と呼ばれる水溶性色素です。その中でも特に、デルフィニジン(delphinidin)というタイプのアントシアニンが青色を発現する鍵を握っているとされています。
ところが、このデルフィニジンで安定した青色をつくり出すには、いくつもの条件が同時に満たされなければなりません。
