2 前項の請求があつたときは、その請求をした者に脱退一時金を支給する。
これをみれば分かるように、永住者であるということが欠格事由として記述されていません。しかも、同条第2項では、請求した者で欠格事由に該当しない者には「脱退一時金を支給する」とあります。
運用で永住者に支給しないこととするとして、その裁量が認められるかは究極には司法判断になり、どのように解釈されるかは未知数です。これは厚生年金保険法の解釈の話になり、入管法の話では無いのだから、日本政府の裁量が制限される余地があります。
しかし、脱退一時金は、「日本国内で生活しない者」であるからこそ認められているもので、社会保障協定が締結されるまでの暫定的な制度です(「当分の間」と条文の冒頭にある)。
永住者は、日本国内で生活することが予定されている在留資格であって、本質的にこれには該当しません。【注解・判例 出入国管理実務六法】 では、永住者に関して以下記述があります。
令和6年版 234頁
1 永住者とは、その生涯を本邦に生活の本拠をおいて過ごす者をいう
が、形式的に外国人=日本国籍を有しない者であることから条文上はこの者を除外できていません。運用でなんとかするなどと言ったとして、果たしてできるんでしょうか?
なぜ、今回の法改正において条文上の手当をしなかったのか?謎です。
年金法案は他の事項の改正内容が多岐にわたるため、それとの優先度の差であったり、影響範囲や効果について熟慮が必要な部分であることから慎重になるのは理解できますが…
また、永住者に脱退一時金の支給が為されるのであれば、それは日本国内に住所を有していない(滞在していない)ということなので、永住者としての生活実態に疑義が呈されます。
もちろん、現代社会では海外勤務をして本邦に戻ってくる者も居り、現行制度では永住者は海外在住期間が合算対象期間として老齢年金の受給資格期間にカウントされるため、直ちに永住者としての実態が失われると評することには慎重になるべきですが。