ホワイトカラーの高度専門職で新卒が一人前になるには数年間かかる。年収300万円のオファーでも、会社が負担するコストは社会保険料等などの法定福利費も加味して、ざっくり3年間で1,041万円、5年間では1,736万円にものぼる。「数年先の先行投資」と考えると企業側にはとてつもない巨費だ。
しかもこれまで新卒が担っていた雑務をベテランがAIで処理するなら、彼らにできる雑務がなくなり、時間単価における比較優位性が消滅する。それはつまり、会社は新人を採用する理由を失うということだ。
「困るのは新卒だけで自分には関係ない」と考えるべきではない。これは国家全体で取り組むべき事項である。
若者の失業増はますます結婚・出産率低下を加速する要因になり、人生への無気力化が起きれば社会不安が増大する。若年層の貧困化は必ず治安悪化とセットだからだ。「犯罪するほうがコスパがいい」という構図を作るべきではない。国家規模で取り組まなければ大きな社会問題化しかねない。
AI失業に備える策は?
もちろん、希望がないわけではない。一時的に混乱は起きるだろうが、いつの時代の変化も人類は必ず乗り越えてきた。
まずはとにかくAIリテラシーを高めることだ。24時間365日、低コスト、ハイパフォーマンスを出すAIに正面から人力で立ち向かっても勝ち目はない。AIを使って仕事を進める力を早い段階から身につけておくべきだ。
現在、大学は実質的な就職予備校のように機能している。そこで在学中にAIを使った技もプロジェクトやシミュレーションを経験できる場を提供する。そうすることで新卒に企業へのPR材料を作っておくのだ。
具体的にいえば、AIで議事録作成をしたり、データ分析などだ。従来、新卒が担っていた業務をAIを手足にする経験を積むことで「仕事を任せるスキル」がつくだろう。
また、要件定義や折衝など「人間力」重視のスキルを磨くことも重要だ。結局、AIがどれだけ進化しても仕事の起点は人間同士のコミュニケーションなので、ここの力をつけることで差別化するのだ。