薄くて軽く柔軟な日本のペロブスカイト太陽電池

 ペロブスカイト太陽電池の特長は、ペロブスカイト結晶が有機溶剤に溶けるので、その液体を「塗る」もしくは「印刷する」ことで太陽電池パネルを製造できるということだ。「塗る太陽電池」なので、薄いフィルム状のものに液体を塗れば、超薄型でしなやかに曲げられるフィルム状の太陽電池ができる。

 ペロブスカイト太陽電池には、基板にフィルムを使うものとガラスを使うものの2種類があり、今注目されているのは日本で開発が進むフィルム型だ。重さは従来のシリコン型に比べて10分の1で、建物の屋上や壁面、自動車の屋根など様々な場所に貼り付けられる。フィルム型は主に積水化学工業が開発を進めている。

 そうした特長について、有機系太陽電池技術研究組合(RATO)理事を務める東京大学先端科学技術研究センターの瀬川浩司教授に話を聞いた。RATOではペロブスカイト太陽電池の発電システムに必要なエンジニアリング技術(構成材料の評価、モジュール設計、システム構築、新規用途等)を研究開発している。

「ペロブスカイト太陽電池の発電層原料の重量比は約60%がヨウ素で鉛が約30%、その他有機物部分が10%以下なので、“ヨウ素太陽電池”と呼んでもいいほど。ヨウ素の生産量で日本は世界2位、シェアも3割くらいある。資源少国の日本にこんな資源はなかなかない。シリコン太陽電池で本当に困ったのは、太陽電池用原料シリコンの調達であり資源的に日本が優位性を発揮できなかったが、ペロブスカイト太陽電池にはこのような問題がない」

 原料を輸入に頼らず量産可能であるという経済安全保障上の理由からも、ペロブスカイト太陽電池の社会的意義は大きい。そして、原料価格でも優位性がある。

「例えば、1MWのシリコン太陽電池を作るのに必要な原料のシリコンは、シリコンの結晶をすごく薄く作って削りカスを減らしても、最低2トンは必要。シリコン価格は高騰したり下落したり大変で、高いときは600万円、安くなると100万円くらい。原料に結構なコストがかかる。それに対し、ペロブスカイト太陽電池は1MW作るのに、たった16kgのヨウ素で済む」

 ヨウ素の国際価格、2023年は1kgあたり61ドルだったので、16kgだと976ドル≒14万1520円(1ドル145円換算の場合)だ。ヨウ素の価格優位性は歴然としている。瀬川教授の研究室では現在、ヨウ素メーカーと共同で太陽電池グレードになる高性能のヨウ素を含む材料についても研究開発している。