カタールW杯決勝トーナメント1回戦モロッコ代表戦では、地元のカタール人ファンが同じイスラム圏のモロッコの応援に回り、半ばアウェイのような雰囲気の中で戦わされたことも不運だった。
また、中盤はペドリ、ガビ、セルヒオ・ブスケツ(いずれも当時バルセロナ)と盤石だった一方で、前線はマルコ・アセンシオ(当時レアル・マドリード)、フェラン・トーレス(バルセロナ)、アルバロ・モラタ(当時ユベントス)など、所属クラブで定位置を取り切れていない選手や出場機会を求めて他国クラブへレンタル移籍している選手が多く、層の薄さは否めなかった。
バルセロナで欧州CLを制した時の強力3トップ「MSN(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)」とは比べるべくもない。
それでもエンリケ監督率いるスペイン代表は伝統的なポゼッションスタイルに固執し、ボール支配率は高いものの、相手の堅守を崩す決定力が不足。相手の守備ブロックに対し効果的な崩しができず、攻撃が停滞し、スペイン紙『マルカ』は「ポゼッションを無限に積み重ねた」とエンリケ監督を批判した。
さらに日本代表戦では、後半開始直後に連続失点を許し逆転された“事件”を「パニックの5分間」と名付けられ、エンリケ監督自身も「完全に我々の武装を解いた」と、試合中の戦術修正や相手の勢いへの対応が不十分だったことを認めざるを得なかった。モロッコ代表戦に臨む選手に対し「W杯までに少なくとも1000回はPKの練習をしてきてくれ」と伝えていたことを明かし、メディアやスペイン国民を呆れさせた。
身も蓋もない言い方だが、エンリケ監督は個を生かすことには長けているが、引いた相手を崩す戦術を持ち合わせてはいなかったのだ。

PSGで進化させたこと
カタールW杯後にスペイン代表監督を退任したエンリケ監督は、約半年のブランクを経て、2023/24シーズン開幕直前にPSGの監督に就任。W杯での失敗を糧に、PSGでは戦術や試合へのアプローチを進化させた。