そのときゲームの統計は 11/12 を突破し、「時空の並びが途中でねじれた」というサインが残るのです。

要するに、91.7 %を超える成績が観測された瞬間、「誰かが巧妙にプレイした」のではなく、「そもそも盤面=時空が動いた」ことが分かる――それがメビウスゲームのキモです。

理論上はブラックホール近くでの質量移動や通過する重力波が“裏面ルート”を開ける候補ですが、まだ実験方法は模索段階です。

にもかかわらず、この 11/12 の数値はベル不等式と同じく装置や測定の詳細を一切問わずにチェックできる“赤信号”となり得ます。

未来に本当に壁破りの統計が出たなら、そのとき私たちは「重力を使った情報処理」というSFの扉がわずかに開いた瞬間を目撃することになります。

研究チームは論文中で、この一般相対論版ベルテストの実験可能性についても議論しています。

現実に違反を達成するには、プレイヤーの一人(例えばアリス)が自分の重力場を操作できるような極端な状況が必要になるでしょう。

とはいえ著者らは、「一般相対論的な違反は実現可能である」と示唆しつつ、そのためにはさらに厳密な相対論的解析が不可欠だと述べています。

今後の課題として、完全な一般相対論的フレーム(重力理論フレーム)でこのゲームを記述し直すこと、そして実際に重力の効果で不等式違反が起きるか定量的に検証することが挙げられています。

重力は次世代チップになり得るか

重力は次世代チップになり得るか
重力は次世代チップになり得るか / Credit:clip studio . 川勝康弘

この研究は一見すると非常に理論的ですが、情報科学と重力理論を結ぶ新たな地平を開くものとして注目されています。

ベルテストが量子情報革命の礎となったように、今回の成果は重力を使った情報処理という未知の領域への第一歩かもしれません。

「重力を『計算資源』に」という表現が示す通り、具体的な装置モデルを前提にせずにテスト結果だけで因果順序の動的性を判定できる点が特徴です(想定シナリオ自体は、巨大質量を自在に動かすという極端なものです)。