哲学的な視点でも、この研究は私たちに新たな問いを投げかけます。

イベント(出来事)とは何か?――因果関係の順序が揺らぎうる世界では、「ボタンを押す」「信号を送る」といった日常的な出来事でさえ、その意味を再定義しなければならないかもしれません。

私たちは普段、時間の流れと因果の矢印を当たり前の前提として物事を考えています。

しかし重力と情報を絡めたこのゲームの中では、その前提が破られる場面が出てきます。

時空の構造が動的に変化することで、原因と結果の関係が一時的に曖昧になるような事態さえ想定されるのです。

こうした極限状況を突き詰めていくことで、逆に「イベントとは何か?」という基本的な哲学問いに新たな光が当たるかもしれません。

最新の成果として報告されたこの「メビウスゲーム」は、重力と情報科学という異色のコラボレーションから生まれました。

「重力で動く“時空コンピューター”は作れるのか?」という大胆な問いかけに対し、まずは「それを判断する基準」が提示されたと言えます。

今後この不等式が実験的に検証され、もし現実世界で違反が観測されるようなことがあれば、そのとき私たちは科学史に残る大きな一歩を目撃することになるでしょう。

計算のために重力そのものを利用する――そんな未来が果たして訪れるのか、想像するだけでも胸が躍ります。

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元論文

Möbius games and other Bell tests for relativity
https://doi.org/10.1103/PhysRevA.111.052211

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。