もしそうなら、深いノンレム睡眠で行われる“脳のメンテナンス作業”――記憶の整理や神経細胞の回復――が阻害されるかもしれません。
さらに、カフェインが作用する〈アデノシン受容体〉は年齢とともに減少するため、20代と40代では影響の強さが違う可能性もあります。
そこで研究者たちは、若年層と中年層を対象に、カフェインを飲んだ夜と飲まなかった夜の脳波を徹底的に比較し、「眠っている脳が本当にクリティカル状態へシフトするのか」を調べる大規模実験に踏み切りました。
本研究は、その“夜の脳内ドキュメンタリー”の最新リポートです。
カフェインは睡眠中の脳でも覚醒状態にしてしまうと判明
図は「カフェインを飲んだ夜」と「プラセボの夜」の脳波パワーを、睡眠段階(ノンレムとレム)ごと・周波数帯(デルタ、シータ、アルファ、シグマ、ベータ)ごとに頭頂図で比べたものです。左端の列が統計的な差を色で示し、青はカフェインでパワーが下がった領域、赤は上がった領域を表します。ノンレム睡眠では、脳の中心〜頭頂部を中心にデルタ・シータ・アルファが広く青く染まり、深睡眠を支える低周波が抑え込まれたことがひと目でわかります。一方、ベータ帯は前頭〜頭頂に真っ赤に広がり、日中の覚醒に関わる高速リズムが増幅していました。対照的にレム睡眠では、目立つのはシータ帯の青みで、後頭〜側頭にかけてパワーが落ち、その他の帯域はほぼニュートラルでした。中央と右の列は機械学習(SVM と LDA)が「これはカフェイン条件か」を当てた精度を緑の濃淡で描いたもので、ノンレムでは緑が濃く分布し、統計的検定で差が出た場所と重なっています。つまり低周波抑制とベータ増強というカフェイン特有のパターンが、統計解析でもAI判定でも再現性高く捉えられたことを示しています。図中の灰色と白のドットはそれぞれ p<0.05 と p<0.01 を示す有意点で、ベータの増強とデルタ・シータの減衰が特に強い信頼度で現れていることが読み取れます。/Credit:Communications Biology