研究陣はその理由について、脳内のアデノシン受容体(カフェインが作用する眠気物質の受容体)の量が年齢とともに減少するためではないかと考察しています。
実際、キャリアー教授は「加齢に伴いアデノシン受容体の密度は自然に低下します。
そのため年配者ではカフェインがそれらをブロックして脳の複雑さを高める効果も弱まり、中年層でカフェインの影響が小さかった一因と言えるでしょう」と説明しています。
若いほど脳はカフェインの刺激作用を受けやすい可能性があり、慢性的なカフェイン摂取による影響も世代によって異なるかもしれません。
「眠る脳に休暇を」──夜カフェインに待った
今回の研究により、カフェインは「眠気を覚ます」だけでなく「眠っている間の脳の働き方」そのものを変化させてしまうことが示されました。
たとえ眠れていたとしても、脳は半分起きているようなクリティカル状態に近づき、休息モードにブレーキがかかったままでは質の高い睡眠とは言えません。
ノンレム深睡眠は脳が情報を整理し記憶を定着させる大切な時間ですが、カフェインによる覚醒状態のせいでそのプロセスに支障が出る恐れがあります。
実際、睡眠中の脳活動の複雑化(エントロピー増加)は高血圧やアルツハイマー初期とも関連する可能性が指摘されており、カフェインによるこうした変化が長期的に健康や認知機能にどんな影響を及ぼすか、注意深い検証が必要です。
一方でカフェインの効果自体は使い方次第とも言えます。
キャリアー教授は「カフェインによって脳が半覚醒のクリティカル状態になることは日中の集中力維持には役立ちますが、夜間の休息には不利に働きます」と述べています。
つまり就寝前のカフェインは、“眠りながら脳に仕事をさせ続けるスイッチ”を入れてしまうようなものなのです。
研究者らは、年齢や健康状態に応じた個別最適なカフェイン摂取ガイドラインを策定するためにも、今回明らかになったような複雑な作用メカニズムをさらに解明していく必要性を強調しています。