脳波計(EEG)のデータは山ほどあるのに、カフェインが睡眠中の脳回路をどう揺さぶるのか、年齢によって影響が変わるのか、といった核心部分はまだ霧の中でした。

特に鍵を握るのが脳信号の入り組み度(専門用語でエントロピー)と、クリティカル状態と呼ばれる絶妙なバランスです。

クリティカル状態をイメージするには、オーケストラのリハーサルを思い浮かべてください。

音が小さすぎると静まり返ってメロディーが立ちません。

かといって全員が好き放題に鳴らせば、耳を覆いたくなる不協和音になる。

クリティカル状態とは、その“ほどよいハーモニー”が生まれる瞬間──いわば「絶妙な覚醒バランス」です。

最新研究が暴くカフェインの効き目の正体

朝の一杯で頭が冴える──その瞬間、脳内ではアデノシン受容体がカフェインにブロックされ、眠気のシグナルが封じられます。しまし近年の脳波研究は「覚醒=オン」だけでなく、脳のダイナミクスを“クリティカル状態”へ押し上げる作用に注目しています。クリティカルとは秩序とカオスの境目。情報処理効率が最大化し、創造的な発想や素早い判断がしやすくなる領域です。昼に飲むコーヒーが会議での即興発言やゲームの反射神経を底上げする経験は、ここに由来する可能性が高いと考えられています。一方、クリティカル状態は常に良いわけではありません。脳はエネルギーを多く消費し、内部ノイズも増えるため集中と散漫が紙一重になります。午後に“カフェイン切れ”でどっと疲れるのは、臨界点からの揺り戻しとも解釈でききます。

このゾーンに入った脳は、情報を最速でさばき、変化にすばやく対応し、学習や判断を効率よくこなせると言われています。

モントリオール大学の研究チームは、「カフェインは日中に私たちをクリティカル状態へ押し上げる。それなら眠っているあいだも、脳を半覚醒モードに留めてしまうのではないか?」という疑問を抱きました。