社会的ジレンマの解決に成功した「スパイクタイヤ問題」では、道路を削らず、雪道の制動に優れた「スタッドレスタイヤ」という有力な選択肢が提供されたことにより、道路環境が守れた稀有な事例になっている。

雪道を守るという「目的合理的行為」が「スタッドレスタイヤ」を作り出し、それが雪国の住民全体に共有されて、数年で車粉をまき散らす「スパイクタイヤ」の駆逐という価値合理性と整合する結果を生み出した。

「個人と社会」は単純な関係ではない

もともと「個人と社会」は単純な関係だけに止まるのではない。たとえば未婚で暮らすのは大人の男女個人だが、未婚の原因は社会の側にもある。

事例を挙げれば、会社が倒産して本人が失業して収入がない、非正規雇用で収入が低い、労働環境として長時間の勤務が多い、転勤が多い、サービス残業が多い、企業の業績が悪く、低賃金であるなどは、個人だけの責任でも会社だけの責任でもない。

個人生活史と全体社会の歴史

このように、人間と社会、個人生活史と全体社会の歴史、自己と世界などの二項対立間における相互浸透を把握しようとするのがミルズのいう社会学的想像力であり、実証精神の土台ともなる。それは、社会的ジレンマを発生させながら、生活史の諸問題と歴史の諸問題を相互浸透させる。

小家族化と単身化

さて、本書で何を実証的に論じたかに移ろう。

社会全体の動向としては、その30年間では、日本全国でも札幌市でも平均世帯人員の減少が顕著に認められて、小家族化が一貫して進んでいた(表2)。同じく三世代同居率も低下して、2000年から現在までの札幌市では2%程度で推移するようになった。日本全体でも政令指定都市札幌市でも、それだけ家族力が低下してきたことになる。

表2 平均世帯人と三世代同居率 (出典)金子、2003:25.

政令指定都市における合計特殊出生率

表3は当時の政令指定都市における合計特殊出生率(TFR)である。