発見時の状態はある程度、周囲の気候に関連しており、脱水状態の脳は42.6%が砂漠地帯で、凍結状態の脳の72.7%がツンドラ地帯、けん化した脳の71.4%が海洋性気候、皮革化した脳の100%が海洋性気候となりました。
ただプルプル状態の脳は幅広い気候帯で発見されており、湿潤な地方でやや多くなっている程度でした。
しかしより興味深かったのは、それぞれの状態が耐えられる限界値でした。
食べ物などを長期保存する場合、最も有効なのは乾燥や冷凍です。
水気を含んだ半生の食べ物ほど早く腐敗してしまいます。
そのため常識的に考えれば、最も長持ちするものは乾燥や冷凍状態のもので、逆に水気を含んだ脳はもっとも弱いと考えるでしょう。
しかし研究者たちが、上の図のように、発見された脳の古さを、それぞれの状態の限界値を調べたところ
「脱水:8970年、冷凍:5180年、けん化:3900年、皮革化:2790年、プルプル:1万2000年」
と予想に反して、水気のあるプルプルの状態の脳が最も高い耐久値を持っていたことが判明します。
なぜこのような結果になったのでしょうか?
なぜプルプル状態の脳が一番長持ちするのか?
なぜ最も腐りそうなプルプル状態が一番長持ちするのか?
今回の研究ではそのメカニズムについても予測が行われています。
軟組織が超長期にわたって存続できるかを決める第1の要因は、微生物などによる腐敗や分解を避けられるかにかかっています。
乾燥・凍結・皮革化が有効なのは、水分が排除されることで、微生物の活動が妨げられるからです。
また脳が腐らず乾燥・凍結するような環境では、通常、気温も微生物の活動に不向きな場合が多くなります。
しかし微生物の活動を抑えるだけでは、1万年を突破することは困難です。
そこで研究者たちが着目したのが、脳だけに起こる可能性がある、特殊な分子架橋の仕組みでした。
これまで発見された軟組織の化石の多くは、タンパク質・脂質・糖といった生体分子が組織中で結合(架橋)することで、化学的に安定した重合高分子を形成していることが知られています。