研究当初、幸福や健康を左右する主な要因として注目されていたのは、学歴や収入、知能指数(IQ)、遺伝的な体質などでした。
とりわけ、社会的に成功している人、経済的に恵まれた人ほど、より充実した人生を送るだろうと多くの研究者が予想していました。
また、身体の健康状態や生活習慣が中年期以降の幸福度に強く影響すると考えられていました。つまりどれだけ運動をしているか、どんな職業に就いているかといった「目に見える要素」が、幸福の鍵だと思われていたのです。
ところが、数十年にわたるデータの蓄積と分析の結果、最も強く幸福に関係していたのは「人間関係の質」だったのです。
研究チームは、被験者の50歳時点での人間関係の満足度を分析したところ、その後の30年間の健康状態や幸福感と強い相関があることを突き止めました。
良好な関係を築けていた人は、ストレスに対処する力が高く、記憶力や身体機能も維持されやすい傾向がありました。
そして主観的な幸福感——たとえば「人生に満足しているか」「気持ちが安定しているか」といった精神的な充実度も高い傾向が見られました。
一方で、人間関係に満足できていなかった人や、孤独を感じていた人は、身体的・精神的な健康を崩しやすく、医療面や生活面でも困難を抱える傾向がありました。そのような状態は、最終的に幸福感の低下や、人生全体への不満とも結びついていたのです。
こうした言い方をすると、友達が少ないと幸せじゃないのか…と勘違いしてしまう人もいるかもしれません。しかし、研究が発見したのは、「どれだけ人と多く関わっているか」ではなく、「その関係がどれだけ満足できるものであるか」が重要という点です。
つまり、「つながりの量」ではなく「つながりの質」が幸福を支える鍵だったのです。
たしかに財産がたくさんあっても孤独であったり、好きなことを仕事にできても仕事上の人間関係にストレスが多い場合、それは幸福とは言えないかもしれません。