私たちは日々、幸せを求めて生きています。
けれど、どうすれば私たちは幸せなのでしょうか?
憧れの職業に就く? 莫大な財産を築く? 結婚して家族を作る?
どれも人生の幸福において重要な要素に思えますが、それを達成してもあまり幸せそうでない人というのは、容易に思い浮かびます。
なら、人をもっとも幸せにするクリティカルな要素とはなんなのでしょう?
この問いに、壮大なスケールで挑んだ研究があります。それがアメリカのハーバード大学(Harvard University)が1938年から開始し、80年以上にわたり3世代の研究者によって継続されている「ハーバード成人発達研究(Harvard Study of Adult Development)」です。
この研究は、長期にわたって被験者の人生を追跡することで、人間の幸福と健康の本質を明らかにすることを目的としています。
そしてこの長期研究は、人間の幸福に最も影響する要素を明らかにしたのです。それは富や地位、成功といった一般的によく上がる要素ではありませんでした。
この研究の概要と最新の知見は、2023年1月に発表された書籍『The Good Life』にまとめられ、広く注目を集めましたが、本記事では研究に焦点を当てて、その歴史と成果をたどっていきます。
目次
- 研究者が3世代にわたって調べた「幸福」の条件
- もっとも幸福に影響する人生の要素とは?
研究者が3世代にわたって調べた「幸福」の条件

ハーバード成人発達研究(Harvard Study of Adult Development)は、1938年に始まり、研究者が3世代に渡って研究を引き継ぎながら、現在も続いている世界で最も長期にわたる縦断的研究の一つとされています。
その目的は「中年以降の健康や幸福感に影響を与える、人生の要因」を明らかにすることです。
研究の初期には、ハーバード大学の2年生268名(全員が男性)を対象とした「グラント研究(Grant Study)」(研究出資者の名前に由来)と、ボストンの貧困地区に住む456名の少年たちを対象とした「グルーク研究(Glueck Study)」(主導した研究者名に由来)という2つの調査が独立して存在していました。