このことは、遺伝的に同一な実験室内の集団では、塔の構造において個体間の平等な協力関係が成り立っていることを示唆しています。
一方で、自然環境では異なる系統の線虫どうしが混ざって塔を作る可能性もあり、「誰が協力し誰がただ乗りするのか」という興味深い疑問が浮かぶ、と研究チームは指摘しています。
線虫タワーが教える協調の原点──進化学・ロボ工学への波及

今回の発見は、動物が集団で移動する行動(集団行動)がどのように進化してきたのかという謎に新たな光を当てるものです。
昆虫の大群移動や鳥の渡りなどと比べても、目に見えないほど小さな線虫が体を絡み合わせて移動するという奇妙な戦略は、集団行動の多様性とその適応意義を考える上でユニークな視点を提供してくれるでしょう。
本研究の責任著者であるセレナ・ディン氏(MPI-ABグループリーダー)は、「我々の研究によって、動物がなぜどのように集団移動するのかを探るための全く新しいモデル系が開かれました。C. エレガンスというモデル生物の豊富な遺伝学ツールを活用することで、集団移動の生態学と進化を研究する強力な手段が得られたのです」と述べています。
かつては“幻”とも言われた線虫タワーが自然界で実在し重要な役割を果たすことが示されたことで、今後このミクロなモデルを足がかりに、生物の協調行動の進化に関する研究が大きく前進していくことが期待されます。
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元論文
Towering behavior and collective dispersal in Caenorhabditis nematodes
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.026
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。