実際、野外で観察された塔では、基部から先端までのワームたちが一斉に体を波打たせ、まるで1本の触手のように空中へ向かってうねうねと伸び上がっていました。

そして塔全体は外部からの刺激に反応して基盤からスルリと離脱し、近くにいた小昆虫(ショウジョウバエなど)にまとわりついてその体表に付着することができました。

こうしてタワー自体が“乗り物”に取り付いて、ワームの集団がまるごと新たな環境へ運ばれていく、いわば集団でのヒッチハイクが(2例ほど)確認されています。

さらに研究チームは、この塔形成の仕組みを詳しく調べるため、モデル線虫として知られるC. エレガンス(Caenorhabditis elegans)を使って実験室内で塔を再現する実験を行いました。

餌のない寒天培地の中央に小さな垂直の柱(歯ブラシの毛)を立て、その周囲に空腹の線虫を放って観察したところ、わずか2時間ほどでワームたちが自ら集まり始めて塔を作り出しました。

この塔は出現した約8割が12時間以上安定して維持され、その間に先端から触手のような「腕」を周囲へと伸ばしていきました。

中には塔が複数の“腕”に分岐し、隣接する物体との間に橋をかけて、向こう側の新しい足場へ到達する例も観察されました。

なお、実験室で観察された塔は高さが約1センチメートル(最大1.14cm)に達する場合もあります。

塔を構成する個体は予想外にもdauer幼虫に限られません。

野外で観察されたタワーは全てdauer幼虫だったものの、ラボ実験では成虫や他齢期でもタワーを作れることが分かりました。

これは塔形成行動が特殊な耐久幼虫期だけのものではなく、より一般化した集団移動戦略である可能性を示しています。

興味深いことに、実験で組み上げた塔の中では、最下部にいるワームも先端にいるワームも同等に活発で繁殖能もあり、ハチやアリのように役割が分化している様子は見られませんでした。