こうした状況で生き延びるため、線虫は「集団で塔を組み上げて高い場所へ達し、他の動物に乗り移って移動する」という巧みな戦略を取ると考えられてきました。
動物が互いの体を連結させて一体となって移動するような行動は自然界では極めて珍しく、スライムカビ(変形菌)や軍隊アリ(ハリアリ亜科)、ハダニ類など限られた生物でしか知られていません。
線虫についても過去に実験室内での観察例はありましたが、この「ワームタワー」現象が野外で本当に起きているのか、そしてその目的が何なのかは長年謎のままでした。
この謎に挑むべく、ドイツのコンスタンツ大学とマックスプランク動物行動研究所の研究チームが共同で研究に取り組みました。
線虫が“合体ロボ”になる瞬間を野外カメラが捉えた

まず研究チームは、ドイツ・コンスタンツ近郊の果樹園で地面に落ちて腐りかけたリンゴやナシを調べ、デジタル顕微鏡を使って線虫の挙動を詳細に観察しました。
その結果、体長1ミリ足らずの無数の線虫が果実の断面の表面に集まり、互いに体を折り重ねて小さな「ワームタワー」を形成しているのを発見しました。
見つかった塔は1つあたり十数匹から多いもので数十匹の線虫によって構成されていました。
腐った果実には複数の線虫種が混在していましたが、塔を作っている個体群は驚くべきことに単一の種だけで構成されており、しかもそのメンバーはすべて飢餓や乾燥に強い耐久幼虫期(dauer期)の状態でした。
筆頭著者のダニエラ・ペレス氏(MPI-AB所属ポスドク研究員)は「線虫のタワーはただの虫の山ではなく、協調して形成された構造体、すなわち動く“超個体”なのです」と表現しています。