研究では、この分散型AIを遺伝的アルゴリズム(進化的アルゴリズム)と呼ばれる手法で最適化しました。
コンピューター内で仮想微生物を粘性のある液体に何度も“泳がせ”、各ビーズの制御コード(泳ぎ方のルール)を世代ごとに改良していったのです。
その結果、ごく単純な仕組みから驚くほど安定した泳ぎ方が獲得できることが示されました。
ハートル氏は「この極めて単純なアプローチで、非常に頑丈かつ効率的な泳ぎの動作が実現できることを実証しました。
中央の制御装置がなく仮想微生物の各部分はそれぞれ簡単なルールに従っているだけですが、全体としては効率的な移動に十分な複雑な挙動が発現したのです」と述べています。
分散ルールが拓くナノボット革命
今回の研究により、脳も神経も持たない単細胞生物が各部位の分散的な動きだけで巧みに泳げる理由が初めて100個規模で定量的に示さました。
これは非常にシンプルな生物システムの複雑な行動原理を説明する発見であり、生物学的な意義が大きいだけでなく、技術的な応用可能性も秘めています。
研究チームによれば、今回得られた制御戦略はビーズ(身体)の数が増えても有効で、形が多少変化したり一部が壊れても機能し続けるという高い堅牢性を持つことが分かりました。
このような特性は、実際の微生物が環境の変化や損傷に適応しながら泳ぎ続けるメカニズムの解明にもつながるでしょう。
さらにこの成果は、人工的に作られる極小のロボット(ナノボット)への応用にも期待が寄せられています。
研究共著者のアンドレアス・ツェトル氏は「つまり、ごく簡単なプログラムで複雑な作業をこなす人工構造体を作り出すことも可能になるということです」と述べています。
例えば、応用例として次のようなナノボットが考えられるでしょう。
環境分野: 水中の油汚染を自律的に探知・除去するナノボット。
医療分野: 体内で標的部位まで自律移動し、薬剤を放出するナノボット。