ただ先に述べた通り現状、その予測を十分に証明することはできていません。

そこで研究チームはこの問題をコンピューターシミュレーションで調べることにしました。

まず微生物のモデルとして、複数の球状の粒(ビーズ)を糸でつないだ「ビーズ連結体(数珠状の鎖)」を仮想的に作り出しました。

これは細胞の内部にある各種の要素をモデル化したものとなります。

各ビーズは隣のビーズとの腕を縮めるたり伸ばしたりすることで動くことができますが、ビーズ自体に与えられる情報は自分の両隣にいるビーズの位置だけです。

生物全体の状態や遠く離れた部分の情報はまったく分からない仕組みになっています。

準備が済むと研究者たちはシミュレーションを開始しました。

分散型情報処理システムが単細胞生物を優雅に泳がせる
分散型情報処理システムが単細胞生物を優雅に泳がせる / Credit:clip studio . 川勝康弘

すると、小さな粒が並んだだけの構造でも、適切な動かし方によって効率的に泳げることが示されました。

次に研究チームは、数理モデルに「学習する能力」を持たせて自律的に泳ぎ方を習得させることを試みました。

具体的には、仮想微生物の各ビーズをごく小さな人工知能(AI)と考え、試行錯誤させることで最適な行動ルールを見つけ出したのです。

このAIはパラメータが60個程度の小規模なニューラルネットワーク(人工の神経回路網)で構成されています。

(※パラメータが60というのはシナプスのような結合(重み+バイアス)が60個存在するという意味です。そのためニューロンに換算するとせいぜい数十個程度となります)

ハートル氏は「単細胞生物にはもちろんニューロン(神経細胞)はありません。しかし、細胞内にごく簡単な物理・化学的な回路を作ることで各部位に特定の動作を起こさせるような単純な制御系を実現することは可能です」と説明しています。

つまり、実際の微生物でも神経がなくとも化学反応などによる簡単な制御メカニズムが各部位に備わっていると考えれば、このモデルと矛盾しないわけです。