その大元となる原因は、電子の雲(電荷分布)が瞬間的にゆらぎにあります。ただし重要なのは、「電気が流れる」「電子が移動して結合を作る」といった化学結合的なやり取りではない点です。
カービン鎖とナノチューブのあいだでは電子がほとんど行き来せず、両者はあくまで“隣合わせに置いた二つの振動体”として存在しています。
その隣り合った振動体どうしが、互いの電子雲の微小なゆらぎに伴う電場の変動を感じ取り、まるで極細のバネでつながっているかのように振動を押し引きし合います。
さらにその振動モードが量子化されているという点も重要です。
ですから振動が同期して見える現象の駆動源は確かに電磁力の一種ですが、そこに電流や化学結合は関わっておらず、量子力学的な“揺れる電荷の影響”だけでエネルギーがやりとりされているというわけです。
こうした量子力学的な振動(フォノン)の結合は通常であれば極めて弱く無視できるほどですが、この場合にはカービン鎖の持つ特有の電子構造や構造の不安定さによって例外的に強い結合になっていることが明らかになりました。
さらに重要な発見は、この振動による相互作用が一方向ではないという点です。
一般には、カービンのような細い鎖は周囲の環境(ナノチューブ)から影響を強く受けると考えられますが、今回の結果はカービン側もナノチューブ側に影響を及ぼしていることを示しました。
実験で観察された追加の振動ピークは、ナノチューブの側の振動モードにも変化を生じさせています。
これは、カービン鎖が単に受け身で振動しているだけでなく、その振動を通じてナノチューブの性質をも変化させていることを意味します。
当初は片方向だけの効果だと誤解されていたこの現象が、実際には双方向の「対話」であることが示された点で、科学的に大きなインパクトがあります。
振動だけで情報通信? カービンが拓くポスト電子デバイス
この量子的振動結合の謎を解き明かすため、研究チームは実験と並行して最先端の理論計算にも取り組みました。