では、ナノチューブとカービンはどのように作用し合っているのでしょうか。

鍵となるのは「振動を介した結合」です。

ナノチューブとその中のカービン鎖は接してはいますが、互いに化学結合はしておらず、電子を行き交わせるほどの強い結合も持っていません。

つまり電気的(電子的)にはお互いほぼ絶縁された存在です。

さらにカーボンナノチューブとカービン鎖の間は真空で、空気などで振動を伝えるようなことはできません。

ですが実験では、振動がお互いを引き付け合い、エネルギーを交換していることが示されました。

研究を主導したエミル・パルト氏は「カービンの鎖とナノチューブは電子的には孤立していますが、それにもかかわらず両者の振動の間には予想外に強い結合が生じていました」と述べ、この一見パラドックス(逆説)的な現象を説明しています。

言い換えれば、ナノチューブとカービン鎖が互いに“振動で会話している”ようなものだ、と研究チームは捉えているのです。

ナノチューブとカービン鎖の振動が結びつく理由

私たちの身のまわりの固体は、原子どうしがバネでつながった“超ミクロの楽器”のようになっていて、温めたり光を当てたりすると原子がブルブル震えます。

量子力学の世界では、この震えを「フォノン」という粒状のエネルギーとして数えます。

たとえば机の上に二つのワイングラスを置き、片方の縁をこするともう片方が共鳴して鳴り出すことがありますが、フォノン結合とはその極端に小さな版だと考えてください。

といっても先にも述べた通り、振動を取り次いでいるのは「空気」ではありません。

カービン鎖とカーボンナノチューブのあいだには、実質的に分子レベルの“ほぼ真空”しかなく、ナノチューブの内径もわずか数十億分の1メートルしかないため、空気分子は入り込めません。

にもかかわらず振動が伝わり量子として「フォノン」が出現する…つまり振動パターンの量子化が起こります。