原子レベルで物質同士がどう影響し合うかを知ることは、新材料を設計する上で極めて重要です。
研究チームは、国際共同研究の体制でこの難問に取り組みました。
電子を使わない“量子LINE”が始まった瞬間

研究チームはまず、高品質なカーボンナノチューブ試料の中にカービン鎖を生成しました。
具体的には、直径約1.4 nm前後(1.36 ± 0.08 nm)の単層カーボンナノチューブを用意し、その中にC60フラーレン分子を詰めてから加熱する方法で、内部により細い二重壁ナノチューブとカービン鎖を形成する手法を採っています。
こうして作られた「ナノチューブ+カービン」複合試料に対し、ラマン分光という分析手法で振動の様子を詳しく観察しました。
ラマン分光法では、レーザー光を試料に当てて散乱光を解析することで、試料中の原子の振動モード(固有の振動エネルギー)を測定します。
いわば光を使って物質の振動(音)を聞き取るような方法で、物質ごとに異なる振動の指紋(ピークパターン)が得られます。
その結果、カーボンナノチューブの中にカービンがある場合に限って、特定の振動数に新たなピーク(振動モード)が出現することが確認されました。
一方、カービン自体の振動モード(約1800 cm⁻¹付近に現れる「カービンモード」)も、ナノチューブと一緒になったときには形状が変化し若干ずれる様子が観測されました。
これらの追加ピークはナノチューブ単体では決して現れず、明らかにカービンとの相互作用によるものです。
さらに興味深いことに、試料を超音波処理してカービン鎖を破壊すると、これらの不思議なピークは消失し元のナノチューブのスペクトルに戻ることも確認されました。
このことから、新しい振動ピークはカービンがナノチューブ内部に存在することによってのみ生じる現象であると結論づけられます。