ハラスメント防止研修を行うと「これまで当たり前だと思っていたことが実は問題だったのか」と気づかれる管理職が多くいらっしゃいます。このように外部の専門家の話を聞くことも、ひとつのきっかけになります。
職場の不合理な慣習を変えるためには、企業文化そのものの変革が必要です。この点で、管理職の役割は極めて重要です。トップダウンで「働き方改革」を掲げても、現場の管理職が旧態依然とした価値観を持っていては、真の変革は難しいでしょう。
筆者がハラスメント防止研修で特に強調するのは、心理的安全性の確保です。心理的安全性とは、従業員が意見や気持ちを安心して表現できる組織風土のことです。従業員がおかしいと思ったことを自由に発言できる環境があれば、不合理な慣習は自然と淘汰されていきます。
定期的な心理的安全性サーベイ(組織の心理的安全性についての従業員へのアンケート調査)を実施し、結果に基づいて管理職への研修を行うことで、組織風土の改善を目指すという方法もあります。
また、多様な視点を取り入れることも重要です。性別や年齢、国籍などが異なる多様な人材が意思決定に参加することで、当たり前とされてきた慣習に疑問を投げかけるきっかけになります。
法令遵守と人権尊重の徹底を
冒頭の大学の事例のように、時に不合理な慣習は明らかな法令違反や人権侵害に発展することがあります。企業側は常に最新の法令や判例に注意を払い、コンプライアンス体制を整備する必要があります。
特に近年は「ビジネスと人権(BHR)」という観点が重視されており、企業活動における人権尊重の責任が問われています。単なる法令遵守にとどまらず、すべての従業員の尊厳と権利を尊重する企業文化の構築が求められているのです。
筆者の経験では、法令違反を指摘されて初めて改善に取り組む後追い型の企業よりも、積極的に法令や社会規範の変化を先取りして制度を見直す先進型の企業の方が、長期的には従業員の満足度も高く、業績も安定しています。