日本の労働市場は、終身雇用や年功序列が根強く、リスキリングが欧米ほど容易ではない。特に45歳以上の中堅層は学習意欲や時間的余裕が不足しがちだ。
企業は、厚生労働省の「教育訓練給付制度」や経済産業省の「リスキリング助成金」を活用し、社内リスキリングプログラムを拡充する必要がある。また、グローバルな人材活用も選択肢だ。
NTTデータはインド拠点と連携し、AIモデルの開発を加速。円安を背景に、ASEANやインドのAI専門家とのハイブリッドチームを構築することで、国内の人材不足を補う動きが広がっている。
米国ほどドラスティックではないにせよ、日本でも大局は大きな人材再配置が行われるだろう。
AI時代に文系職に追い風が吹く理由
そして意外なことにAI時代において、文系的知性が新たな価値を生み出している。その背景にはAIの進歩があまりに急速なため、国際的な規制や標準化が進んでいる事情がある。
たとえば、EUの「AI Act」(2026年8月全面施行)では、高リスクAIシステムの開発企業に対し、ガバナンス専門家の配置が義務付けられ、運用には人間の監督が求められている。また、ISO/IEC 42001(2023年発行)が企業にAIマネジメント体制を要求しており、倫理的判断や説明責任が重視されている。
これにより、ガバナンスやサイバーセキュリティ人材の需要が急増。LinkedInの求人データ(2025年)によると、AIガバナンス関連の求人は前年比で42%増加している。特に「AI倫理監査官」や「データガバナンススペシャリスト」の需要が高まっており、哲学、法学、社会学といった文系的知性が求められ、技術スキルと組み合わせることで差別化が図れる。
さらに人間らしさが価値を持つ領域も見逃せない。たとえば、高級ホテルの接客では「CX(顧客体験)にプレミアムが乗る」として、人間ならではの温かみが重視されている。教育分野でも、AIによる学習支援が進む一方、対面でのメンタリング需要は根強い。文系的知性は、こうした「人間中心」の領域で強みを発揮する。