そしてこれらの背景にはAIだけでなく、経済全体の動向も影響している。2025年の米国はインフレ抑制のための利上げが続き、テック企業の採用が鈍化。こうした外部要因が、STEM専攻の就職難を一時的に加速させている可能性も考慮するべきだろう。

人間の仕事は今後も残る

だが最終的には、判断、倫理、責任領域で「人間の仕事」は今後も残ると予想することが可能だ。その根拠として、AIによる完全自律処理のリスクが挙げられる。

たとえば、マッキンゼーが2024年に発表した自動運転車の事故責任に関する研究では、AIシステムのエラーによる訴訟コストが年間平均で1台あたり5,000ドルに上ると試算されている。一方、人間が最終的な判断を担う場合、責任の明確化により大幅にコストが抑えられるとされる。

つまり、「オールAIはかえってコスト高、人間が責任を取る方が合理的」ということだ。ビジネスは経済的合理性で動く。今後も判断や倫理、責任領域で人間の仕事が残る経済的合理性が担保されると読み取ることができる。

日本はこれからどうなるか?

さて、米国で起きているこの大きな変化を我が国ではどのようなインパクトをもたらすのだろうか?

日本では、2025年春の新卒就職率が98%と、5年連続で超売り手市場が続いている。しかし、AI導入が加速する業界では、質的ミスマッチのリスクが潜む。経済産業省の「DXレポート2024」によると、生成AIの企業導入率は大企業で約40%に達する一方、中小企業では10%未満と低迷。金融業界ではAIによる業務効率化が進むが、製造業ではレガシーシステムの刷新が遅れ、AI導入が緩やかだ。

このギャップが労働市場に二重の影響を与えている。量的には労働人口減少による「人材不足」が課題だが、質的には「AIを活用できる人材」の不足が顕著だ。

たとえば、レガシーシステムの保守人材は過剰気味だが、クラウドネイティブやAIガバナンスのスキルを持つ人材は不足している。野村総合研究所の予測(2024年)では、2030年までに生成AI市場が年平均成長率(CAGR)37.5%で拡大し、こうしたスキルへの需要がさらに高まるとされている。