ヒトの精巣で寄生虫が見つかる症例(精巣トキソプラズマ症)は極めて稀で、感染していても無症状の男性が大半と考えられます。

また、男性不妊が増加している先進国でトキソプラズマ感染率が同じ期間に上昇しているわけではないことから、この寄生虫は複数ある要因の一つに過ぎない可能性も指摘されています。

過去の疫学研究でもトキソプラズマ感染と男性不妊の関連を支持しない結果があり、さらなる大規模調査が必要です。

それでも、世界中でこれほど多くの人が保有する寄生虫が精子に直接ダメージを与え得るという事実は看過できません。

研究チームは「トキソプラズマ感染症が男性不妊に及ぼす長期的影響を解明するには、ヒトを対象とした詳細な調査が不可欠だ」と強調しています。

今後は不妊治療の現場で寄生虫感染を考慮した診断や対策の検討が進められていくでしょう。

幸い、トキソプラズマ感染はある程度予防が可能です。

感染を避けるため、猫の糞の扱いに注意する(妊婦は猫のトイレ掃除を控える)、生肉や加熱不十分な肉を食べない、野菜や果物をよく洗う、といった対策が有効だとされています。

食品衛生やペットの衛生管理を徹底し、この寄生虫から身を守ることが、将来の生殖能力を守ることにもつながるかもしれません。

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元論文

Adverse impact of acute Toxoplasma gondii infection on human spermatozoa
https://doi.org/10.1111/febs.70097

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部