例えば当初は体の下で支えたり物を操作する Under Web 動作が大半でした。

しかしやがてタコが成長し慣れてくると、これらの新しい腕はエサ探しや周囲の探索、さらには獲物に飛びかかるといったリスクの高い行動にも積極的に参加し始めたことが映像解析から分かりました。

具体的には、捕食者による攻撃で複数の腕を失っていたタコにおいて、そのうちの1本(R1)が二股に分かれてR1aとR1bという2本の新しい腕になったのです。

両方の腕は時間とともに成長し、R1aは主にエサを食べる際(捕食行動)に、R1bは探索行動の際にと、それぞれ役割を分けて使われていました。

実際、観察によってR1aが獲物を捕らえて口元に運ぶのによく使われ、R1bは巣穴の偵察や周囲の様子を探る動きに使われる場面が多く記録されました。

このように左右の腕や各腕ごとに動作の分担が見られたことは、タコの運動神経系のもつ驚くべき柔軟性(運動可塑性)を示すものだと研究者らは指摘しています。

また、リスクの高い状況では負傷歴のある腕をあまり使わなくなるという興味深い傾向も観察されました。

例えば外敵に襲われそうになったり、硬い殻を持つ獲物と格闘したりする場面では、このタコは以前ケガを負った腕(再生した腕を含む)を使う頻度を抑え、安全行動での使用を増やしていました。

研究チームはこれを「痛みの記憶」や学習効果による無意識の防御反応ではないかと考察しています。

言い換えれば、過去のケガの経験がタコの行動選択に影響を与え、危険な場面では再生腕を守ろうとする慎重さにつながっている可能性があるということです。

この長期観察の結果、二股に分かれた腕は最終的に追加の腕として日常行動に組み込まれましたが、R1aとR1bの「捕食寄り」「探索寄り」という役割差は最後まで残りました。

こうした再生腕の適応的な使いこなしが野生環境で詳細に記録・分析されたのは世界でも初めてのことだったと研究者たちは強調しています。

再生医療とロボット工学に湧く“タコ式ハック”

再生医療とロボット工学に湧く“タコ式ハック”
再生医療とロボット工学に湧く“タコ式ハック” / Credit:Canva