驚くべきことに、その波の形は最初に発生させた波紋の形とほぼ同一だったのです。
特にスマイルマークやエッフェル塔など複雑な形で顕著でした。
タイムミラー発動の瞬間、水面は複雑な干渉模様に覆われて元の模様はまったく見えなくなっていましたが、逆転波が再集束するにつれて次第に元の形が浮かび上がり、最後には初めに作ったスマイルやエッフェル塔の輪郭がくっきり蘇りました。
波が伝わって広がり切った後でも、情報が失われていなかったどころか、見事に元のパターンを再現できたのです。
研究チームは逆転後の波形について、初期の波との高い相似性を確認しています。
水の粘性による減衰で細部の振幅こそ低下するものの、本質的な形は非常に精度よく“巻き戻し”されました。
重力の符号を反転すると時間も反転する?

なぜこのようなことが可能なのでしょうか?
背景には、水面波の伝わる速さが重力に依存するという物理法則があります。
通常、水面にできる重力波・表面波の速度は重力加速度(G)や波長によって決まっています。
そこで水槽を約 2 ミリ秒だけ最大 21 G で下向きに加速すると、有効重力が一瞬マイナスになり、波の速さが大きく変わります。
重力より強い下向き加速度を一瞬かけることで、波の式に入る重力 の符号をひっくり返してしまうわけです。
すると波の形は保たれたまま、時間の流れだけが逆向きになったように振る舞います。
研究者たちは「元の波がまさに鏡で反射されたように振る舞う」と表現しています。
この瞬間タイムミラーの考え方は、水面波に限らずあらゆる波動に一般化可能だといいます。
重力の逆転が系内の波を反転させる効果があるという結果は、今後さまざまな分野で応用できます。
実際、理論的には音波や光波などでも媒質の屈折率や誘電率を全体に一斉に変化させることができれば、同様に時間反転した波を発生させられると考えられています。