録音してから巻き戻す時代を超え、波をその場で時間ごと折り返す技術へ――そんな大きな流れが見えています。
具体的な応用の道も進んでいます。
特に音波の時間反転は既に医療分野で研究が進んでおり、複雑な生体内でも超音波エネルギーを一点に集束させる手法として有望視されています。
従来はセンサーアレイで目標からのエコーを録音・反転再生する必要がありましたが、将来的には「瞬間タイムミラー」によってシンプルな装置で体内の病変部位へピンポイントに超音波を当てる、といった治療応用も夢ではないかもしれません。
また電波の世界でも、時間反転信号処理は通信において最適な信号生成や過去に発生した信号源イベントの再構築、高エネルギー波の空間集束などに役立つことが知られています。
今回の成果はこうした情報通信への応用にも新たな道を拓く可能性があります。
たとえば、一度失われた信号の時間的な“残響”から元の情報を復元したり、マルチパス環境で散乱した通信波を受信点に効率よく集めたりする、といったアイデアも考えられるでしょう。
研究チームによれば、この実験は波動がもつ可逆性の「魔法」を目で見て直感的に理解するための優れた教材にもなるといいます。
「瞬間タイムミラー」現象は、私たちの身の回りにある波のイメージを覆し、将来の波動制御技術に新風を吹き込むかもしれません。
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元論文
Time reversal and holography with spacetime transformations
https://doi.org/10.1038/nphys3810
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。