鍵となるのは、扱う波の周期より十分に短い時間で媒質の特性を大きく変化させることですが、光のように振動が極めて高速な波では技術的ハードルも高く、現在はどの波でも水の実験ほど簡単にできるわけではありません。
それでも「時間反転対称性はあらゆる波動に普遍的に成立する」ことを今回の結果は示唆しており、この手法を応用した波の制御技術には大きな期待が寄せられています。
タイムミラーの応用
近年では「瞬間タイムミラー」で始まった“時間をいじる”アイデアは、水だけでなく光や音、電磁波へと一気に広がっています。
まず 2023 年、元祖の水面実験の続報では、レーザーで水面の立体的な動きを追いながら、巻き戻し波が元の波の“時間的な傾き”に当たることを数式と映像で突き合わせ、理論と実測のズレをほぼ解消しました。
同じ頃、ニューヨーク市立大学のチームはテラヘルツ帯のメタマテリアルを一瞬だけ屈折率ジャンプさせることで、入ってきた電磁パルスを“時間の壁”で跳ね返す現象を世界で初めて観測し、マイクロ波より高い周波数でもセンサーなしの時間反転が可能だと示しました。
光の分野では 2024 年、実際の材料で“フォトニック時間結晶”のバンドギャップを大きく広げる手法が報告され、フェムト秒レーザーで誘電率を周期的に揺さぶると、光そのものが「時間方向のブラッグ反射」を起こし、波長変換と時間反転を同時に操れる道が開けつつあります。
音の世界でも、時間的に急変させた弾性格子で「音波の時間屈折」が再現され、アコースティックメタマテリアルの設計図には“瞬時に媒質を切り替えて反射も透過も自由に決める”タイム・メタデバイスが重点項目として加わりました。
さらに、固体表面のプラズモンや量子ウォークのようなミクロな波でも、時間に境界を作るとトポロジカルな状態が切り替わることがわかり、時空の形と波の可逆性を結びつける研究が勢いを増しています。