すなわち、波が伝わっている媒質の性質をある瞬間に全空間で一斉にガラリと変化させることで、波を過去に送り返すというアイデアでした。

もしそれが実現できれば、煩雑なセンサーや電子機器を使わずとも媒質自体が“記憶装置”の役割を果たし、波をその場で逆転させられるはずです。

この大胆な発想に基づき提案されたのが「瞬間タイムミラー」という手法で、今回はその世界初の実験実証が行われました。

水面を「21倍重力」で叩くと波が過去へ巻き戻る

水面を「21倍重力」で叩くと波が過去へ巻き戻る
水面を「21倍重力」で叩くと波が過去へ巻き戻る / Credit:Vincent Bacot et al . Nature Physics (2016)

研究チームは水を張った水槽を用意し、水面にさまざまな波紋の「元」を作りました。

まず単純な点状の波源(ピンで水面を突く)によって同心円状の波紋を発生させ、次にスマイルマーク(ニコちゃんマーク)やエッフェル塔の形に配置した複数の波源によって複雑な波紋を作り出しました。

こうして水面全体に波が広がり、特に複雑な図形の場合はいったん元の形が判別できないほど波が乱れてしまいます。

ところが、波が十分広がったそのある瞬間に、水槽ごと下方向へ瞬間的にガクンと加速させます。

実験では、水槽を 約 2 ミリ秒だけ下向きに 21 倍の重力(−21G) で加速するとで、媒質に「時間の境界」を作り出しました。

この一瞬の衝撃(タイムミラー作動)によって、水槽を急激に揺らした瞬間、波の速さがガクッと変わり、外向きの波に重なるかたちで逆向きの波が生まれます。

(※マイナスの重力加速度で位相がずれて“巻き戻し用”の波成分が同時に現れます。)

つまり、水面には元の外向き波と新しく生まれた逆向き波が重なって広がります。

研究者らの高速撮影映像には、この様子がまるで波紋の映像を巻き戻しているかのように捉えられています。

実際、外側へ広がっていた波紋が逆向きの波となって中心へ収束し、最終的に波源のあった位置で再び波が盛り上がりました。