こうしたつながりを人力で発見することは極めて困難ですが、AIの分析を用いると、こうした違法サービスの提供組織がどこで人を募り、どこへ移動させ、どのように使っているかという、これまで見えなかった「人身売買の地図」を浮かび上がらせることが出来ます。

この分析によると、広告全体の10%未満の連絡先が、都市間の“リクルートと提供”を結ぶ移動パターンの85%以上を担っていることが明らかになりました。つまり、少数の組織的なネットワークが、広範囲にわたって人材を勧誘し、都市へと“供給”していたのです。

アメリカ国内における「リクルート広告同士が同じ連絡先(電話番号)で投稿されていた場所のつながり」/Credit:Ramchandani et al., Manufacturing & Service Operations Management(2025)

今回の研究が画期的だったのは、こうした従来の方法ではほとんど見えなかった「騙して集め、都市で搾取する」組織的なネットワーク構造の一部が可視化できたという点です。

見えない「入り口」に目を向けるという視点

人身売買というと、遠い国や特殊な犯罪組織の話のように思えるかもしれません。

しかし、この研究が示したのは、その始まりが意外にも日常的な場所にあるという事実です。

きっかけは、ごく普通に見える「仕事の募集広告」でした。性的なサービスを明言しない、あいまいで都合のよい表現、それが、本人の知らないうちに性的被害へと導く入り口になることがあります。

研究チームは、電話番号というシンプルな情報に注目し、広告の出された場所と時間、文面の傾向をAIに分析させることで、働き手を募る広告と、違法性のある性的サービスを提供する広告が、実は裏でつながっている構造を初めて明らかにしました。

今回の研究は、そうしたシンプルな方法によって問題が表面化する前に組織的な犯罪を察知して対策を打てる可能性を示しています。